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最近の活動報告

雑木林の観察
2008621日(土)

講師:森広信子

場所:東高尾

夜から降り続いた雨は、集合時刻になってもまだ降っていました。かなり強い降り方だったので、参加をあきらめた人もいましたが、この雨は、昼間は弱くなるはずなので、観察会は予定通り決行です。

 出発すると、まもなく雨は止みました。湿った山道には、クガビルが出ています。ミミズを見つけて食べさせると、すうっと飲み込みました。昨年がコナラの大豊作だったので、踏まれない道の左右には、たくさんの芽生えが出ています。

 高尾周辺の雑木林は、コナラとクリの林ですが、そのほかにもいろいろな木が生えています。他の場所と同じように、高尾でも使われなくなった雑木林や、人工林にしようとして失敗した雑木林がたくさんあり、雑木林はいろいろな姿をしていました。

 一般の道から少し脇に入ると、タヌキのため糞がありました。昨年の秋にミツバアケビをたくさん食べたらしく、ミツバアケビの芽生えがびっしりと出ています。新しい糞もあって、まだまだ使用中のようでした。太いアカマツの立ち枯れの木は、まだ樹皮が残っていましたが、ちょっと力を入れると簡単にはがれて、びっくりしたオオゴキブリが出てきました。小さな穴が開いた幹には、他にもたくさんの昆虫が入っているはずです。自然界では無駄ではない枯れ木ですが、こんな木が人に使われないでそのまま多様な生物に使われているのは、雑木林が放置されているしるしです。

 いつもなら、少し先で高尾山のほうに下るのですが、今、圏央道の工事中で、通行止めになっています。次の下り口はずっと先です。そこで同じ道を引き返して、高尾駅の方向に下ります。この道は、この後、8月末の豪雨で崩れてしまいました。

オオゴキブリ

朽木にいて、人家には入ってこない。



花に集まるハチの観察
2008720日(日)

講師:清水晃

場所:南大沢

 南大沢駅前には、人工的に作られた空間が広がっています。大学の中が主な観察場所ですが、途中の石畳の道には、2列にナンキンハゼが植えられて、今が花盛りです。といっても、見た目は地味で、人目を引く花ではありません。ところが、この花には、たくさんのハチが集まっていたのです。

 大きな蜜腺を持つ小さな花には、多様なハチが集まります。春から夏にかけて、花蜂も狩り蜂も寄生蜂も、活発に活動しています。子供用には、花蜂は蜜と花粉、狩り蜂や寄生蜂は専用の昆虫やクモを食物にしますが、親は花の蜜や樹液などの流動食を食べます。蜜の出る花は、親蜂たちの食卓になるのです。もちろん、ハチ以外にも、花の蜜の好きな虫はたくさんいます。大学の構内では、ネズミモチの花が終わりかけていて、アオギリの花がこれから最盛期を迎えています。あまり高くない樹木は、花に集まる虫を観察するのにも、捕まえるのにも適しています。これからナンキンハゼもアオギリも、大きくなって目の届かない高さに花を咲かせるようになるでしょう。そうなると、私たちは木の下で、双眼鏡を使って見ても、点々が飛んでいるようにしか見えません。

 花蜂や狩り蜂には、巣があります。樹木の葉や枝、草の葉には、アシナガバチやトックリバチの巣がつくられます。自然の穴を使うハチもいます。それで、あらかじめ細い竹を切って、束ねてあちこちに吊るしておくと、太さに応じていろいろなハチが巣に使います。使っているかどうかは、入り口が塞いであるかどうかを見ればわかります。使っている竹を部屋に持ち帰って、割ってみることにしました。建物に使われている竹も、ハチに使われています。運のいいことに、ちょうどオオフタオビドロバチのお母さんが入り口を泥で塞いでいるところに出会いました。

アシナガバチの巣があった

オオフタオビドロバチ

竹筒を泥でふさいでいるところ。


河原の虫と鳴く虫
200896日(土)

講師:青木良

場所:多摩川河川敷

 大きな川の河原は、草原の発達する環境です。ここには、バッタの仲間がたくさん住んでいます。明るいうちはトノサマバッタやショウリョウバッタをはじめ、いろいろなバッタを目で探します。河原には木も生えていて、セミが鳴いています。昆虫が多ければ、クモも網を張って待ち構えます。

 日が暮れてくると、虫たちも夜の虫と交代します。主役はコオロギの仲間たち。じつは、コオロギも広くはバッタの仲間になります。バッタにも鳴くバッタがいますが、鳴く虫といえば、昼のセミ、夜のコオロギです。この付近には、まだ野生のスズムシやマツムシがいて、鳴く虫の種類が多いのですが、大合唱が始まると、その中から1つの声を聞き分けるのはたいへんです。とくに、樹上でアオマツムシが大声で鳴きだすと、他の声はかき消される勢いです。

 もう一つ、夜の河原には、夜の動物がたくさん現れます。周辺の建物をねぐらにしているアブラコウモリです。にぎやかに鳴きながら飛んでいるのですが、私たちの耳には、その声は、あまりにも高い声なので聞こえません。この、人の耳では聞こえない高い音を、超音波と呼んでいます。そこで、超音波を聞こえる音に変える機械を使って、コウモリの声を聞きます。「ピチュ、ピチュ、ピチュ」と短く区切って鳴きながら飛んでいるのがわかります。コウモリは、大きな耳でその声の反射を聞きながら、邪魔物や敵や餌を判別するのです。

 さて、鳴く虫は超音波でも鳴いているでしょうか? セミは聞こえる音だけでなく、超音波も出していました。しかし、コオロギ類は、アオマツムシもスズムシも、超音波を出していません。唯一、マツムシが、聞こえる音に近い超音波を出していました。

ショウリョウバッタの耳

渓流の自然
20081019日(土)

講師:森広信子

場所:御岳渓谷


ニホンザルの森
2008127日(日) 

講師:桑島正充

場所:桧原村

 十平方キロ以上にわたって山の森を移動しながら生活するニホンザルの群れ。季節によって、食べやすいものを選んで食べながら、移動する生活を、「遊動」と呼んでいます。水たまりに氷が張るほど冷え込んだ日でしたが、日があたると暖かく感じます。

 2週間前までサルが食べていた集落の柿もすっかりなくなり、サルの気配もありません。いちばん食べ物の少ない季節になったのです。バス停から万成沢へ、林道を歩きます。すぐにクリの木があって、実を食べた跡がありました。その先には、糞も落ちています。糞は、少し古いもので、もう乾いていました。後で、沢の水で洗って、何が入っているのか確かめてみましたが、植物の繊維ばかりで、形のあるものはありません。陽だまりに出ている草でも食べたのでしょうか。もう種子も食べられないようです。今年はドングリが不作で、多くの動物が苦労しているかもしれません。

 万成沢を奥まで行っても、森はしんとしています。サルになったつもりで、林の中を尾根まで登ってみました。人工林の中は、比較的歩きやすい傾斜で、低木があるのでつかまることもできます。すぐにクルミの木がありましたが、クルミもなっていません。私たちはまっすぐ登りましたが、サルはもっと自由に登り、人工林の中に点在する落葉樹をつないで、食べながら移動するのでしょう。尾根に出ると、立派な道があります。

 少し下ったところに落葉樹が数本かたまった場所があり、若葉の頃はこの中のハリエンジュが、サルにとってよい食物になります。集落近くまで下ったところで、元は畑だった草地があります。縁のほうにユズやキハダの木が植えてありますが、ユズの実に、食べた痕がありました。

そのほか、ここにはシカの糞も落ちていました。これは重大なことです。なぜなら、シカは、もう長いこと、このあたりまで来たことがなかったからです。60年ほど前には、多摩川の南側にあたる桧原村からは、シカがいなくなっていました。多摩川の北側の地域で、シカが増えて、低木を食べて減らすようになってからも、桧原村にはシカがいなかったので、低木が食べられることはなかったのです。1990年代、少しずつですが、多摩川の南側の地域でもシカの痕跡が見つかるようになりましたが、それも秋川の奥に限られていたのです。シカは少しずつ数が増えながら、分布を広げているようです。糞は、ここにシカが来た証拠です。これからどうなるのか、注意深く見ていかなくてはならないでしょう。

サルが食べたユズの実



2009118日(日)

講師:森広信子

場所:高尾山

冬にしては暖かい日でしたが、曇っているので、あまり暖かい気はしません。それでも、歩けば気温が高いのは、体が感じています。

 お正月はひどく混雑する高尾山ですが、まだ人は多いというものの、この日は日曜日でも少し余裕があります。表参道は、沢に沿って登っていきます。入り口にアセビの木が植えられています。アセビの木は、もうできあがったつぼみをつけて、春を待っています。葉の芽は、つぼみとは別にあり、新しい葉を出すのは、花が咲くときよりずっと遅い季節です。

 花芽や、花と葉の混じった混芽を持つ樹木は、花が春早く咲かせるため、前の年から花を準備している樹木です。葉よりずっと早く花が咲くときは花芽、花のあとまもなく葉を出す場合は混芽になるようです。花の入った芽は、他の芽とはっきり違う形をしていたり、葉っぱだけの芽より大きくできていたりします。アブラチャンやクロモジの丸い花芽は、特に印象的です。

 沢のそばには、常緑の草もたくさん見られます。常緑樹なら、いかにも丈夫そうな葉をつけていますから、冬でも大丈夫に見えますが、草は柔らかい葉をつけていて、ほんとうに大丈夫なのか疑うような姿です。中には、土や落ち葉と同じ色の、保護色のようなヨゴレネコノメのような草もあります。

大きな双葉がありました。これはアオキの双葉です。青木の花は春早く咲きますが、花の入った混芽は、特に変わった形をしていません。アオキが変わっているのは、花から芽生えになるまでの期間の長さです。春咲いた花は、秋には大きな実になっていますが、ふつうは緑色で、熟したサインを出しません。冬の終わり、春が近くなってようやく赤くなって、鳥にアピールしますが、この頃には鳥たちは秋の実を食べつくし、少ない食物を必死で探している頃です。春にやっと鳥に食べられて運ばれたアオキの実は、晩秋に芽を出し、双葉だけ開いて冬を迎えます。ここまで、開花から丸2年、春、やっと本葉を出します。昨年の春、アオキはたくさんの種子をつくったらしく、アオキの芽生えはたくさん出ていました。

昼食を静かな神変山で食べて、午後は4号路を歩きます。1週間前の雪が凍って残っています。イヌブナは大きな冬芽をつけています。少し太い芽に見えたので、壊してみると、葉っぱだけで、花はありません。イヌブナは毎年花を咲かせないので、次の春は、イヌブナは葉っぱだけ出すのでしょう。

裸の葉をつけただけの裸芽を持つ樹木としては、アワブキやヤブムラサキが見られました。芽鱗で被われない代わりに、びっしり毛が生えています。芽の大きさは、中身がどれだけ用意されているかを表します。

雪の乗ったつり橋からは、大きな丸いフサザクラの花芽や、穂になったキブシの花芽が、間近に見られます。冬芽の観察とはいっても、樹木は高くなって、小さな冬芽を見るのは難しいことが多く、根元から出たひこばえや、折れて落ちた枝、背の低い低木に限られます。橋などのように、大きな木の梢近くが見られる場所は、大いに利用しましょう。

モミの枝が折れて落ちていました。モミの小さい木は、たくさんあります。小さい木は葉っぱの先がとがっていて、触ると痛いのですが、高い木の先の枝の葉っぱは、先が丸く、触っても痛くありません。葉っぱは枝にらせん状にちぃているのですが、軸がねじれて、横枝では左右に並ぶようになります。枝をつくる芽が枝の先にいくつかついています。真ん中はまっすぐ枝を伸ばし、周りの芽は横枝を作ります。枝を元のほうに辿っていくと、枝を分けながら伸びてきた過去が、よくわかります。葉っぱは数年分ついていますが、その中に1年分だけ、短い葉っぱをつけた節があります。たぶん葉っぱが伸びる季節に、気温が低く、十分伸びることができなかったものでしょう。こういう事故は、時々あるようです。昨年は雄花をたくさん作ったらしく、その痕も残っています。さて、雌花は?

モミの雌花は大きな松ぼっくりになって種子が熟すとバラバラになってしまい、軸が枝の上に残るはずです。その軸が、発見されました。周囲にはモミの種鱗(種子を守っていた硬い板)も落ちています。さらに、種子が落ちて出てきた芽生えもありました。

モミには、もうひとつ、見るのが難しいものがついています。寄生植物のマツグミです。マツグミは、時々大きな枝が折れて落ちていますが、落としたはずのモミの木をいくら見上げても、なかなか見つかりません。見つからなくても、生長し、花が咲き、実が実ります。いつも落ちた枝でマツグミがついていることを知り、落ちた花で、花が咲いていたことを知る、そんな植物です

 木から落ちてくるのは、葉っぱだけではありません。マツグミの枝のように、風で折れて落ちてくる枝もあるし、動物がかじって落とすこともあります。高尾山に住むムササビも、枝をかじって落とし、葉っぱや花や冬芽を食べて落とします。こういう落し物は、樹木にとっては事故ですが、不要になった細かい枝も、樹木はたくさん落としています。

 ウワミズザクラは葉っぱつきの花の穂を、春につくりますが、この枝を丸ごと落とします。ウワミズザクラの木の下で、その穂を捜してみました。一つ見つけると、次々に見つかります。意外に細く、繊細なものです。

 日陰沢に下ると、山小屋のそばにヒマラヤスギが植えてあります。ヒマラヤスギの雄花が木の下にたくさん落ちています。この木は、針葉樹ですが、花が秋に咲きます。それでまだ雄花が腐らないで残っているのです。

 いろいろなものを見つけて、バス停に下りるころには、日没が近づいていました。

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